育てる

かつて先輩の教師と雑談をしていた時、「私、庭の花にお水をやる時、花に話しかけるのよ。そうするときれいに咲くのよね」と言われた。聞いていた私は「そんなことってあるのかな?」と半信半疑だった。そのあと、その教師は続けた。「子どもたちにも言葉がけが必要なのよ」。

 何の変哲もない一粒のトマトの種から、一万二千個のトマトの実る巨木を育てた、有名な植物学者野澤重雄氏は次のように語る。「種によしあしはない。大事なことは、まだ小さい苗のときに、自分はどんどん成長しても必要なものは十分に与えられるんだという安心感があること。そうすれば苗は世界を信じ、疑うことなくどこまでも伸びていく」。

 昔から「親はなくとも子は育つ」といわれ、一方で「親の背中を見て子は育つ」といわれる。どちらも真実だ。すなわち子どもは自力(生命力)で育つが、それにはよいお手本(モデル)が必要ということだろう。本当に子どもは見よう見まねで生きる力、知恵を獲得していく。

 子どもの育つ力には、本当に驚かされる。未熟な親がおろおろしている間に、まるで魔法の木が伸びていくかのようにどんどん成長していく。いったい、この小さな体と幼い心にどんな魔法が働いているのだろうかと、畏敬の念すら覚える。

 子どもは天からの授かりものという。親の所有物ではない。親の言うとおりに育つわけではない。一人の別人格を持った存在として生きる。だから、子どもというかけがいのない宝を大事にしながら、その成長を喜ぶ、感動しながら。

 育てるといっても、親が子どもをつくるわけではない。親や大人にできることは、子どもが育つお手伝いをすることでしかない。お手伝いとは、子どもの育つ力が十分に発揮できるように環境を整えることだ。光と水と空気、栄養と遊べる空間と走り回れる大地、あたたかい人間関係と信頼できることばと明日への明るいビジョン、そして親の愛。これだけそろってゆったりと見守れば、子どもは安心してのびのび育つ。

 「子どもプロジェクト」は教会や地域の子どもたちの成長のお手伝いをさせていただく。私たちにできるお手伝いは?