“下流老人”の実態 

6年前に「ひだまり」の設立総会で藤田孝典さん(NPO法人「ほっとプラス」代表理事)に記念講演をしてもらった。藤田さんは埼玉でこれまで12年間、ソーシャルワーカーとして生活困窮者支援に取り組んでおられる。その彼が最近『下流老人』(朝日新書)という本を出版し、発売2か月で約8万部と異例の売れ行きで、「下流老人」という造語が今やテレビや週刊誌をにぎわしている。

 ところで、下流老人の定義だが、「生活保護基準相当で暮らす高齢者及びその恐れがある高齢者」だという。その実態は私たちの想像以上に高齢者の間に貧困と格差が広がっているという。統計で見てみる。一人暮らしの場合、年間可処分所得の中央値(244万円)の半分(122万円)未満が貧困世帯に当たる。政府の統計では、貧困率は高齢男性のみの世帯で38・3%、高齢女性のみの世帯では、何と半数超えの52・3%にのぼる(2010年)。推定で600~700万人。

 下流老人が増えた一番の原因は何といっても低年金である。40年間まじめに保険料を納めても、国民年金は1ヵ月平均約5万5千円、厚生年金は14万5千円。総務省の調査によると、高齢夫婦二人世帯の1か月の生活費は平均27万円。仮に厚生年金で月々21万円の収入があっても月に6万円が不足する。貯金が300万円なら4年、1千万円でも14年しかもたない。

 ひと昔前は子どもと同居して扶助を受けることもできたが、最近は高齢者のみ世帯や単身世帯が増えた。身近に頼れる人間がいない社会的孤立である。同時に寿命が伸びて、昔に比べて高齢期が長期にわたり、病気や介護などに予想外の出費があれば、たちまち貯金は底をつく。そのような社会構造の変化に、年金や社会保障制度というシステムが追いついていない、と藤田さんは指摘する。

 自助努力ではもう追いつかないところまできている。共助(地域などでの助け合い)、公助(国などによる支援)などの一層の充実が求められている。