使命、懸命、宿命、運命

使命とは、何でしょう。作家の三浦綾子さんは「使命っていうのは、命を使うと書きますよね。私の使命は小説を書くことだとずっと思ってきました。体が弱ってから小説を1冊書き上げると、もうくたくたになるんです。あ-、命を使ったなあって思うんです」と語られている。

 懸命とは、何でしょう。瀬戸内海の小さな島の診療所で30年にわたって診療を続けられた74歳の医師は、前任の医師が都会に帰って、困っていると聞き、助けになるならと赴任した。初めは次の医師が見つかるまで1,2年いて、自分も帰ろうと思っていた。ところが医師がいなくなったら困るだろうと、一人きりの診療所で一生懸命に働いているうちに、だんだんそこでの仕事に使命感を感じるようになった。「とにかく懸命に働いてきました」と老医は言われる。懸命とは、命を懸けると書く。懸命とはこの老医のような働きを言うのだろう。

 宿命とは、何でしょう。先の老医が言われる。「そろそろ引退して都会へ帰ってゆっくり老後を過ごしたらどうかと、友だちや先輩が皆言うけれど、私はもう、ここでずっと診療所の所長をします。それが私の宿命だと思っています」。宿命とは、命が宿ると書く。この老医が語る宿命は、ネガティブなニュアンスはなく、ポジティブな、肯定的な響きがする。

 運命とは、何でしょう。東日本大震災の仮設住宅を訪問された柏木哲夫氏(精神科医)の訪問記より。「津波で、だんなさんも子どもさんも亡くされて、ひとりで仮設に暮らしている40代の女性のお話をうかがいました。つらい体験を話してくださいましたが、その最後に、『これも私の運命だと思います』と言われた。しかし、その言い方は、決してネガティブではありませんでした。起こったことをすべて受け止め、『運命』という言葉が出たようでした。『神さまがこの方の命を運ばれたのだな』と私は思いました。」この女性はクリスチャンだそうです。

 *『使命を生きるということ』(柏木哲夫・樋野興夫著)14-17p参照